歌舞伎とは?どんな伝統芸能なのか基礎知識をわかりやすく説明
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歌舞伎をご覧になったことはありますか?
写真で見たことはあっても、実際に観たことはないという方も多いでしょう。
とはいえ、日本を代表する文化の1つでもありますので、教養として最低限に知っておいても損はありません。
この記事では歌舞伎とは何か、どう楽しめるのかについてシンプルにまとめました。
目次
歌舞伎とは
歌舞伎とは、歌と踊り、芝居の3つを融合した日本古来の総合エンターテインメントです。
英語でも「Kabuki」とそのまま表記します。
1603年、出雲阿国(いずものおくに)が「かぶき踊り」として京都で踊ったのが最初と言われ、1624年には江戸でも興行されるようになりました。
なお、「かぶき」とは奇抜な服装や踊りなどで人目を惹くことを指す「傾く(かぶく)」という動詞から派生した言葉です。
歌や踊りで楽しませるという意味を込めて「歌舞伎」という字があてられています。
歌舞伎が成立した頃は、女性たちによる「女歌舞伎」や少年たちによる「若衆歌舞伎(わかしゅかぶき)」などもありました。
しかし、風紀を乱すという理由で幕府から禁じられたため、現在のように男性のみが演じるスタイルになりました。
また、最初は歌と踊りが中心でしたが、女性に扮する「女方(おんながた)」や善人、悪人などのさまざまな役回りが誕生することで、芝居も楽しめるようになっていきました。
歌舞伎の歴史
最初に、常時、興行する芝居小屋として誕生したのが、京橋の中村座です。
江戸の市井の人々に好まれる「荒事(あらごと)」などの、活気のある力強い演目を演じるようになりました。
一方、かぶき踊りが誕生した京都や大阪では、人情や風情を繊細に表現する「和事(わごと)」が好まれ、発展していきました。
また、人形浄瑠璃の作品を歌舞伎で演じるなど、他の文化も積極的に取り入れて、歴史的な話題をあつかう「時代物(じだいもの)」や無名の人々の暮らしをあつかう「世話物(せわもの)」などのジャンルも誕生しました。
しかし、質素を旨とする享保の改革が始まると、豪奢かつ享楽的な歌舞伎は幕府からの締め付けを受けるようになります。
すべての劇場が、当時は江戸の郊外であった浅草への移転を命じられ、派手な生活で知られていた5代目・市川海老蔵が江戸から追放されるなど、歌舞伎の存続が危うくなるような出来事も起こりました。
享保の改革が下火になると、歌舞伎も再び活気を取り戻します。
明治時代には、狂言などと並んで日本を代表する芸術としての位置づけになりました。
昭和に入ると、有名役者が人間国宝になるなど、政府からの評価も高い伝統芸能の1つとして認識されるようになりました。
歌舞伎の衣裳と音楽
歌舞伎の魅力は、歌と踊り、芝居の3つだけではありません。
豪華な衣装や心情を表す音楽も、歌舞伎を彩る魅力の1つです。
歌舞伎は江戸時代に発展したため、衣装も江戸時代の服装が基本となっています。
しかし、登場人物の立場や職業などを観客に分かりやすくするために、原色を大胆に使った配色や通常よりも何倍も大きい帯など、随所にアレンジが見られます。
音楽は、芝居の流れを分かりやすくするために補助的に用いられることが多いです。
<拍子木のイメージ画>
芝居が始まるときや舞台が転換するときに「柝(き)」と呼ばれる道具で音を出したり、長唄や三味線で登場人物の心情を表現したりします。
長唄や三味線を担当する人は、裃(かみしも)をつけて観客に顔を見せるため、歌舞伎の舞台がさらに豪華なものとなります。
歌舞伎の「屋号」って何?
歌舞伎では、役者の名前とは別に「屋号」があります。
屋号は、出身地や芝居小屋、副業にちなんだもので、家ごとに決まっており、通常、生涯変わることはありません。
歌舞伎が誕生した江戸時代は、役者が名字を名乗ることを許されていなかったため、屋号をつけて各自呼称していました。
主な屋号は以下の通りです。
役者としての名前 | 屋号 | 読み方 |
---|---|---|
市川團十郎、市川海老蔵など | 成田屋 | なりたや |
尾上菊五郎、尾上菊之助など | 音羽屋 | おとわや |
市川猿之助、市川段四郎など | 澤瀉屋 | おもだかや |
中村勘三郎、中村勘九郎など | 中村屋 | なかむらや |
松本幸四郎、松本染五郎など | 高麗屋 | こうらいや |
歌舞伎を観るにはどこへ行けばいいの?
歌舞伎は、以下の4つの劇場を主に、上演されています。
- 歌舞伎座(東京都中央区銀座)
- 新橋演舞場(東京都中央区銀座)
- 大阪松竹座(大阪市中央区道頓堀)
- 南座(京都市東山区四条大橋東詰)
また、巡業するときは、上記の劇場だけでなく各地の公会堂やホールで観劇することができます。
その他にも、「こんぴら歌舞伎」や「博多座歌舞伎」などの特定の場所で定例的に公演されることもあり、日本全国さまざまな場所で歌舞伎に親しむことができます。
なかなかチケットが取れないときは、「シネマ歌舞伎」もおすすめです。
近くの映画館で歌舞伎を見られるだけでなく、通常の映画チケットと同じ値段で楽しめるため、気軽に歌舞伎に触れることができます。
歌舞伎にはどんな演目があるの?
歌舞伎では、新しい演目が演じられることもありますが、通常は決まった演目を何度も繰り返して演じます。
とはいえ、演者によって表現方法が異なるため、同じ演目でも飽きてしまうことはありません。
主な演目は以下の通りです。
時代物 | 世話物 | 所作事 |
---|---|---|
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演目例:勧進帳(かんじんちょう)
兄・源頼朝からあらぬ嫌疑をかけられた源義経。
山伏に変装し、武蔵坊弁慶などの家来たちと奥州へと向かいます。
安宅関の関守・富樫左衛門の家来の1人が義経を指して「お尋ね者の義経に似ている」と言いますが、弁慶は即、義経を杖で打ちたたき、「お前のせいで関所を通れない」と叱ります。
これを見た富樫左衛門は「本当に義経なら、家来が打つことはないはずだ」と言い、義経一行は無事に関所の通過が叶います。
演目例:曽根崎心中(そねざきしんじゅう)
遊女のお初と醤油問屋で働く徳兵衛は夫婦の契りを交わしたものの、徳兵衛にはお初を身請けするお金がありませんでした。
また、同時期、親友と思っていた九平次に犯罪者の汚名を着せられてしまいます。
世の中に絶望した徳兵衛は、お初と手を取り合って曽根崎の森に入って心中します。
実は曽根崎の森に入る前に九平治の悪だくみは露見し、徳兵衛が無実であることは判明していたのですが、時すでに遅し。
徳兵衛とお初が真実を知ることはありませんでした。
演目例:春興鏡獅子(しゅんきょうかがみじし)
大奥の小姓が将軍の前で心を込めて踊るうち、小姓が持った獅子頭に魂が入って勝手に動く様子を表現した演目です。
なお、春興鏡獅子のようにストーリーよりも踊りがメインの演目を「所作事(しょさごと)」と言います。
歌舞伎役者の技量が試されるため、長い時間をかけて練習に取り組みます。
また、踊りだけでなく衣装も見どころの1つです。
歌舞伎の魅力は日本の文化が凝縮されているところ
歌舞伎は、単に江戸の文化や歴史情報が凝縮されているだけでなく、今に通じる人間の心の機微を豊かに感じることができる古典芸能です。
劇場では音声ガイドの貸し出しに対応していることもありますので、ぜひ本物の舞台を生で観てみてはいかがでしょうか。