ヘイトスピーチとは?問題の背景と規制法をわかりやすく解説
309 views

平成28年6月3日、「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」が施行されました。
「ヘイトスピーチ解消法」とも呼ばれていますが、そもそもヘイトスピーチとはどんな意味で何を指すのでしょうか。
ヘイトスピーチがもたらす問題と規制法についてわかりやすく解説します。
目次
ヘイトスピーチとは?蔓延する言葉の暴力
ヘイトスピーチとは、『特定の国の出身者であること、もしくは子孫であることを理由に、 日本から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりする言動』のことです。
ヘイトは英語で「憎しみ」を指し、憎しみを述べることを「ヘイトスピーチ」と呼びます。
なお、「スピーチ」と言いますが、物を投げたり無視したりするなどの行為もヘイトスピーチに含まれます。
また、ヘイトスピーチというと、特定の国の出身者を憎む人々が集まってデモをおこなう行為をイメージする方も多いかもしれませんが、かならずしも「デモ」のように大々的におこなうとは限りません。
街中で外国人に対して「外国人だから」という理由で差別的な言葉を投げかけたり、インターネットなどの掲示板で特定の国の人々をおとしめるような発言をおこなったりすることも含まれます。
ヘイトスピーチの形態
国籍や人種、民族などを理由として、差別を助長するような言動は、すべてヘイトスピーチです。
国籍や人種、民族が異なる人々に身体的な危害を加えなくても、以下のような事柄はすべてヘイトスピーチで、決して許されることではありません。
<ヘイトスピーチに含まれるもの>
- 国籍や人種、民族が異なることを理由に精神的な危害を加えること
- 名誉を傷つけること
- 名誉を傷つけること
- 経済的に被害を及ぼすこと、あるいは、被害を及ぼすことをほのめかすこと
- 国籍や人種、民族が異なる人を差別するようにうながすこと
なお、日本で起こるヘイトスピーチは大きく3つの形態に分けられます。
<ヘイトスピーチの3つの形態>
- 特定の国や民族、人種の方を一律に排斥する言動。例:「日本から出ていけ」など
- 特定の国や民族、人種の方に危害を与える言動。例:「皆殺しにしろ」など
- 特定の国や民族、人種の方を差別的な名前で呼ぶこと。例:「ウジ虫」など
いずれにしても、ヘイトスピーチは人権を無視し、相手の心を傷つける行為です。
ヘイトスピーチをしないのは当然のこととして、ヘイトスピーチを許さない社会をつくっていく必要があるのです。
ヘイトスピーチの日本国内で起きている状況
日本において、特定の国や民族について悪意のある言葉を投げかける行為は、昔からありました。
しかし、「ヘイトスピーチ」として問題になったのは、2009年12月4日に京都市で起こった「京都朝鮮第一初級学校襲撃事件」といわれています。
在日朝鮮人を排斥する思想を持つ団体が在日朝鮮人の通う学校に押しかけ、拡声器を使って学校や児童に暴言を浴びせたのです。
この事件以降、特定の国や民族、人種の人々を排斥する行為や街頭宣伝を「ヘイトスピーチ」と呼ぶようになりました。
なお、京都朝鮮第一初級学校襲撃事件に関しては、名誉棄損罪や威力業務妨害罪が適用され、関わった人々の有罪判決が出ています。
また、行為の悪質性から約1,200万円の損害賠償も命じられています。
ヘイトスピーチの事例
残念ながら、日本では何度も特定の国や民族に対するヘイトスピーチがおこなわれてきました。
2012年以降は1日1回以上のペースで、全国のさまざまな場所でヘイトスピーチがおこなわれているとされています。
ヘイトスピーチの主な事例と関連法の施行は、以下の通りです。
事例 | |
---|---|
2009年12月 | 京都朝鮮第一初級学校襲撃事件 |
2010年1月 | 京都朝鮮第一初級学校襲撃事件を起こした団体が街宣活動をおこなう |
2010年3月 | 再度、同じ団体が街宣活動をおこなう |
2011年1月 | 奈良県の水平社博物館前で街宣活動がおこなわれる |
2013年以降 | 東京・新大久保や大阪・鶴橋など在日朝鮮人が多く居住する地域での街宣活動がシリーズ化するようになる |
2014年12月 | 最高裁で京都朝鮮第一初級学校襲撃事件に有罪判決がくだる |
2016年1月 | 大阪市でヘイトスピーチ対処条例が成立。同年7月に条例全体が施行 |
2016年6月 | 国会でヘイトスピーチ解消法が施行 |
ヘイトスピーチの背景と影響
ヘイトスピーチは、特定の国や民族、人種の方に対する強い憎しみから生まれる言動です。
では、なぜ特定のバックグラウンドを持つ人に強い憎しみを持つのでしょうか。
個人に対する憎しみは、相手から直接イヤなことをされたり言われたりした経験から生まれることが多いです。
もちろん、相手の言動を誤解して憎しみを持つことも考えられますが、たいていは何か個人的な経験から生まれています。
一方、特定の集団に対する憎しみは、個人別のケースに比べれば、実際の経験から生まれることは少数派です。
特定の人から嫌がらせを受けたとしても、「嫌がらせをしてきた相手を憎む」のが基本であり、「相手のバックグラウンド」や「相手のバックグラウンドに所属する人々全体」を憎もうとすることは、規模が拡大して労力がかかるからです。
たいていは「偏見」や「噂」といった実態のないものから生まれ、「みんなも嫌っているから」「知っている人に誘われたから」などの理由でヘイト行為に発展します。
つまり、ヘイトスピーチは、噂や偏見から生じた「集団へのいじめ行為」なのです。
偏見から憎しみへ、憎しみから暴力へ
きっかけはちょっとした偏見なのかもしれません。
しかし、偏見を持ったまま生活をしていると、偏見がいつの間にか「事実」のように思え、偏見の対象を憎む行為が「正義」のように感じられるようになります。
間違った認識や情報を「正義」と思い込むようになると、ヘイトスピーチをおこなうことが「みんなの平和のため」と信じるようになります。
集団で相手を威圧することに対して罪悪感を覚えないどころか、暴力行為や虐殺行為へとエスカレートすることもあるでしょう。
ヘイトスピーチを規制する法律はあるの?
ヘイトスピーチを規制する法律は、20016年6月に「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律(ヘイトスピーチ解消法)」として施行されました。
ヘイトスピーチはあってはならないものと定義され、すべての差別的な言動に対して適切に処置をおこなうことを定めています。
また、法施行するだけではなく、ヘイトスピーチに関する相談窓口を設け、人々から偏見をなくすための教育活動にも力を入れています。
自治体の規制に対する対応
さまざまな自治体でも、ヘイトスピーチを解消するための活動や条例制定に取り組んでいます。
たとえば京都府では、すべての人が尊厳を持って生きていけるための啓発活動を積極的におこなっています。
外国やマイノリティの人々の文化を尊重すること、そして、自分と違うからといって差別をするのは間違っているということを、教育活動を通して広めています。
ヘイトスピーチに関する世界の動き
さまざまな人種の人々が住むヨーロッパでは、ヘイトスピーチを取り締まる法律を制定している国もあります。
「表現の自由」を盾にヘイトスピーチを続ける人もいますが、他者を一方的に傷つける行為は「表現の自由」の使い方として間違っています。
憎しみを押し付ける行為は単なる暴力行為であるという認識が、世界共通のものとして広まりつつあると言えるでしょう。
ヘイトスピーチについて理解を深めて加害者・被害者にならない
「わたしはヘイトスピーチをしたことがない」という方も、本当に何の偏見も持っていないのか自問自答してみましょう。
自分とは違う習慣や様子を見て、眉をひそめたり、差別的な言葉を使ったりしてはいないでしょうか。
日本が世界に誇れる立法国家であり続けるためにも、一人ひとりが差別のない社会をつくっていきましょう。