国民審査の罷免とは?制度と問題点をわかりやすく説明

普段、あまり意識することのない最高裁判所。

実は最高裁判所の裁判官を辞めさせる権利が、有権者にあるのをご存知ですか?

国民審査の罷免制度とはどのような仕組みなのか、また、問題点や有権者が知っておくべきことについてまとめました。

国民審査で罷免される条件

投票箱に投票用紙を入れているシーン

罷免とは、簡単に言えば「職を辞めさせること」です。

日本国憲法の第79条では、「最高裁判所の裁判官は、国民審査によって職責にふさわしいかが問われる」と定められており、ふさわしくないと判断された裁判官は罷免されます。

なお、最高裁判所裁判官の国民審査は、単独ではおこなわれません。

衆議院議員総選挙の際に併せて実施され、有権者は「最高裁判所の裁判官としてふさわしくない」と判断する裁判官の名前の上に×印を記入します。

印がない投票用紙よりも、×印がついている投票用紙のほうが多かった裁判官は罷免されます。

ただし、投票総数が選挙人名簿登録者数の1%に満たないときは、罷免されないこともあります。

また、最高裁判所の裁判官は、国民審査されてから10年が経過した場合、衆議院議員総選挙において再度、国民審査を受けることになっています。

しかしながら、任命されてから10年以内に定年退官することが一般的なため、今までに2回以上の国民審査を受けた裁判官は存在しません。

国民審査で罷免された人はいる?

裁判官

今までに、国民審査によって罷免された裁判官は一人もいません。

たとえば、2017年10月に実施された国民審査でも、審議の対象となった7人において、もっとも×印が多かった裁判官は小池裕氏で、不信任投票率は8.56%でした。

なお、過去のもっとも高い不信任率は、1972年の国民審査における下田武三氏の15.17%です。

下田武三氏は「裁判官は体制的でなくてはならない」と発言したと報道されたことがあるため、国民から反発を受けていました。

しかし、それでも不信任率は50%未満であったため、罷免とはなりませんでした。

国民審査の問題点

クエスチョンマークと背広の男性

「国民審査制度」は、最高裁判所裁判官という普段あまり身近に感じることのない職務の人を、国民の意思で罷免できる仕組みです。

国民が司法に直接関わり、権限を行使するわけですから、非常に民主主義的な制度ということができます。

しかし、国民審査制度には問題点もあります。

とりわけ、次の3点は改善が必要とされているポイントです。

問題点1:審査対象者の判断材料は一般人に分かりにくくなっている

国会議員や地方議員の選挙では、候補者たちは選挙活動において「どのような政策を持っているのか」「現状についてどのように考えているのか」を日々訴えます。

そのため、政治に強い関心を持っていない方でも、「候補者Aは、夫婦別姓を合憲と考えているようだ」「候補者Bが議員になったら、福祉が充実しそうだ」ということを知ることができます。

また、選挙活動を通して、候補者の人となりもある程度は分かるでしょう。

一方、国民審査においては、最高裁判所の裁判官たちは自分たちの信条を議員候補者のように何度も訴えることはありません。

また、選挙活動もないため、裁判官の人となりを知る機会がないまま、審査しなくてはいけないのが現状です。

投票日前に、裁判官の経歴等を記した審査広報が自宅に届きますが、議員候補者と比べて判断材料が圧倒的に少ないという事実は変わりません。

問題点2:無記名投票は白紙委任状扱いになる

国民審査では、「罷免させたい」と思う裁判官の名前の上に×印を記入します。

反対に言えば、何も記入しないで投票すると、すべての裁判官を信任したということになるのです。

そのため、「この裁判官は、適任なのかどうか分からないので白紙のまま提出した」というケースも「適任だと思うので×印をつけなかった」というケースも、まったく同じ意味を持ってしまいます。

問題点3:投票方法が総選挙とは違うため間違いやすい

衆議院議員総選挙では、ふさわしいと思う候補者の名前を投票用紙に記入します。

つまり、投票用紙に記入しない候補者に関しては、「議員としてふさわしくない」あるいは「候補者の中でもっともふさわしいというわけではない」と判断していることになります。

一方、国民審査は、「ふさわしくない」と判断する裁判官だけに×印をつける方式です。

衆議院議員選挙とは投票方法が異なるため、システムが分からないまま白紙で投票する方も少なくありません。

異なる方法の投票を同時に2つおこなっていることも、国民投票が分かりにくくなっている理由の1つといえるでしょう。

国民審査前には審査対象者の情報収集をしておこう

デスクトップのパソコン

実際に、投票所で初めて、国民審査の対象となる裁判官の名前を目にする方も多いでしょう。

今までに罷免された裁判官が1人もいないことからも、どう判断してよいか分からないために、白紙投票する方が多いと推測されます。

また、「とにかく誰か1人には×印をつけよう」と考える方もある程度はいるようで、左端あるいは右端に名前が記載されている裁判官は、不信任率が高くなりがちです。

本当に最高裁判所の裁判官としてふさわしい人を見極め、ふさわしくない人を罷免するためにも、審査対象者の情報を収集しておく必要があります。

投票日前に配られる審査広報をしっかりと読むだけではなく、最高裁判所の公式サイトを開け、各裁判官が今までに手がけた裁判や実績、経歴についても見ておきましょう。

国民審査を棄権したいときには

国民審査では、白紙で投票すると「裁判官全員を信任した」ということになってしまいます。

そのため、「判断できないから信任も不信任もしたくない」というときには、白紙投票はおすすめできません。

裁判官がふさわしいかどうかを判断できない場合は、国民審査そのものを棄権することができます。

棄権する方法は簡単です。

投票所で、国民審査用の用紙を受け取らなければ良いだけです。

国民審査用の用紙は、衆議院議員総選挙の投票用紙と一緒に手渡されるので、衆議院議員総選挙の投票用紙だけを受け取り、「国民審査は棄権します」と伝えて国民審査用紙の受け取りを拒否しましょう。

国民審査を棄権したいにもかかわらず用紙を受け取ってしまったときは、投票所の係員に「国民審査は棄権します」と伝えて返却します。

「返却するのが面倒だ」と投票箱に入れてしまうと、裁判官すべてを信任したということになってしまいます。

「どの裁判官も信任・不信任したくない」という意思を表示するためには、かならず係員に返却しましょう。

国民審査は「最高裁判所裁判官を罷免するか」投票・判定する制度

国民審査は、最高裁判所の裁判官を罷免するかどうかを判断する制度です。

白紙投票すると「信任する」という意思表示を示したことになる点に注意してください。

また、議員候補者と比べて事前情報が少ないため、有権者自身が積極的に対象裁判官の情報収集をおこなう必要があることも意識しておきましょう。