国民審査とは?最高裁判所の裁判官に対するチェックの仕組みを解説
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日本国憲法の第79条では、すでに任命を受けている最高裁判所の裁判官を国民が審査する「国民審査」について定めています。
なぜ最高裁判所の裁判官を国民が直接審査するのか、また、審査はどのように実施されるのかについてまとめました。
目次
国民審査とは最高裁判所の裁判官がふさわしいかチェックする制度
国民審査とは、その名の通り国民が最高裁判所の裁判官を直接審査することを意味しています。
最高裁判所の裁判官の中に職務にふさわしくないと思われる人物がいるときは、投票用紙に×印を示し、解職すべきだとの意思を表明します。
なお、国民審査に参加できるのは、衆議院議員の投票権のある人すべてです。
つまり、満18歳以上の日本国民なら、禁固刑以上の刑を受けて執行を終えていない人等の特別の理由を除き、誰でも国民審査に参加することができます。
国民審査をおこなう理由
最高裁判所は日本の司法の最高機関であり、国会で定められた法律が憲法に合致しているか、また、地方裁判所や高等裁判所で出された判決が正当なものであるかを最終的に判断する場所です。
最高裁判所の裁判官が正しい判断のできる人物でないときは、日本の司法制度が正しく機能しない可能性もあるでしょう。
国民審査は、最高裁判所の裁判官を国民が直接罷免できる制度です。
つまり、司法の最高機関である最高裁判所の裁判官を国民の意思で罷免できることで、憲法で定められている「主権在民」を実現することができるのです。
国民審査は衆議院選挙と並行しておこなわれる
国民審査は衆議院議員総選挙と同時におこなわれます。
そのため、最高裁判所の裁判官を審査するにあたって、別途、投票所に出向く必要はありません。
投票所では、国民審査の対象となる裁判官の名前が印刷された投票用紙を受け取ります。
投票用紙に記された裁判官の中で辞めさせたい裁判官がいる場合には、裁判官の氏名の上の空欄に×印を記入します。
辞めさせたいとは思わない裁判官に関しては、氏名の上の空欄には何も記入しません。
国民審査の結果は
投票用紙の×印の数が空欄の数を超えたときは罷免されます。
例えば裁判官A氏の氏名の上に×印をつけた有権者が100万人、空欄のまま放置した有権者が300万人のときは、A氏はそのまま裁判官としての職務を継続します。
しかし、A氏の氏名の上に×印をつけた有権者が300万人、空欄のまま放置した有権者が100万人のときは、A氏は罷免されて最高裁判所の裁判官としての職務から解任されます。
なお、2017年10月22日に24回目となる国民審査が実施されましたが、過去23回の国民審査と同様、罷免が決定した裁判官は一人もいませんでした。
取り立てて問題のある裁判官がいないとも考えられますが、同時に実施される衆議院議員選挙の候補者と比べると最高裁判所の裁判官の情報が少ないために、罷免すべきかどうかを判断しにくいという問題点も浮かび上がってきます。
国民審査には無効票が多い
平成27年10月22日に開催された24回目の国民審査では、全国の投票総数は5,650万票超でしたが、無効票が169万票弱あったため、有効な投票数は5,482万票弱でした。
無効投票率は2.99%(もっとも無効投票率が高い沖縄県では7.29%)と、小選挙区の無効投票率2.68%や比例代表の無効投票率2.09%と比べると高い数値となっています。
候補者の氏名や政党名を記す衆議院議員選挙と比べると、×印をつけるだけの国民審査は有権者にとっては簡単な投票のはずですが、無効投票率が高いことから投票方法が周知されていないことが分かります。
罷免を希望する裁判官に×印をつけるのではなく、継続を希望する裁判官に〇印をつけるなど、投票方法の見直しが必要かもしれません。
最高裁判所裁判官国民審査の方法
衆議院議員総選挙の投票所に行き本人確認を終えると、小選挙区選挙用の投票用紙と比例代表選挙用の投票用紙、そして、最高裁判所裁判官国民審査の投票用紙の3枚の投票用紙を受け取ります。
小選挙区の投票用紙には候補者の名前を書き、比例代表の投票用紙には政党名を書きますが、最高裁判所裁判官の投票用紙には文字ではなく×印のみを記します。
罷免を希望する裁判官がいないときは、何も記入せずにそのまま投票箱に投票用紙を入れましょう。
新たに加わった裁判官のみが国民審査の対象になる
最高裁判所の裁判官は長官を含めて15名いますが、15名すべてが国民審査の対象になるのではありません。
一度国民審査の対象となると、次に国民審査の対象になるのは10年経過した後の衆議院選挙時と定められていますので、前回の国民審査時に対象になった裁判官は今回の国民審査では対象とはならないのです。
なお、最高裁判所の裁判官として任命されるのは、裁判所法の第41条では「法律の素養のある40歳以上」と決められています。
しかし、新たに最高裁判所の裁判官として任命を受ける人は60歳以上であることが一般的なため、最高裁判所の裁判官の定年(70歳)を迎えるまでに国民審査を受けるのは1回のみとなるケースが多いのです。
国民審査の対象となる裁判官の情報を知る方法
政治家を1人1人吟味して選ぶのと同様、最高裁判所の裁判官も1人1人吟味して選びたいものです。
しかし、最高裁判所の裁判官はすでに裁判官として任命を受けているため、衆議院議員の候補者のような選挙活動をおこないません。
そのため、裁判官がどのような人物なのか、また、どのような考え方を持っているのかは、選挙関連の情報だけでは分かりません。
とはいえ、最高裁判所の裁判官に関する情報がまったくないわけではありません。
国民審査の前には、国民審査の対象となる裁判官の氏名や経歴、最高裁判所で関与した裁判の例などを記した「審査広報」が発行され、裁判官を判断する際の情報源になります。
審査広報は有権者のいる世帯に国民審査実施時までに配布されますので、かならず確認して、対象の裁判官について理解しておきましょう。
審査広報を見逃した場合は、裁判所の公式サイトから最高裁判所の裁判官に関する情報を得ることができます。
公式サイトでは常に15人の裁判官すべての経歴や心構え、最高裁判所で関わった裁判についての情報を公表していますので、確認しておきましょう。
国民審査は有権者が「司法」をチェックできる大事な権利
選挙活動をしている候補者や政党代表者と比べると、最高裁判所の裁判官は遠い存在に思えるかもしれません。
しかし、国民審査は有権者が司法制度に直接かかわる大切な機会でもあります。
司法の最高機関にふさわしい人物を選べるように、審査広報や裁判所のサイトから情報を入手しておきましょう。