女性の貧困率が高い理由|給与格差や社会的役割から考える
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女性の貧困が社会問題になっています。
生まれたときは性別による経済格差はないはずなのに、なぜ女性は貧困状態になりやすいのでしょうか。
日本における男女間の給与格差や社会的役割の違いから、この社会問題について解説します。
目次
貧困とは
貧困には、絶対的貧困と相対的貧困があります。
絶対的貧困とは、雨風を凌げず自宅もなく食料にも困り、人として最低限生活する条件が備わっていない状態のことを指します。
絶対的貧困は途上国に多く存在し、病気や死などと用意に結び付くため、世界でも深刻な問題となっています。
相対的貧困は、国や社会、地域などの大多数の文化水準と生活水準と比較し、困窮した状態のことを指します。
相対的貧困は先進国で見られる貧困で、生活費を切り詰め生活はできるけど、趣味や教育などにお金を回す余裕がなく、将来においても改善に期待が持てない状態です。
とりわけ、日本での女性の貧困は大きな問題となっています。
女性の貧困率の実態
平成22年の男女別・年齢階層別相対的貧困率をみると、男性に比べ女性がおおむね高い傾向にあります。
25~29歳までの階層では男性のほうが相対的貧困率は高いのですが、30~34歳の階層では同程度になり、35~39歳の階層からはほとんどすべての階層において女性の貧困率が高くなっています。
とりわけ高齢になればなるほど女性と男性の貧困率の差は大きくなり、80歳以上の階層では男性の相対的貧困率が16.6%であるのに対し、女性の相対的貧困率は27.1%になっています。
男女で収入格差がある
男女で貧困率に差があるのは、収入格差があるからです。
20代の間は、男女ともに収入に大きな差はありませんが、30代に入ると男性は数十万単位で給料が上がるのに対し、女性の給料はほぼ横ばいで変化がありません。
そのため、最大200万円近い給料格差が生じています。
給料格差問題の背景には、女性を取り巻く労働環境があります。
女性を取り巻く労働環境
女性たちが男性に比べ貧困に陥る要因として、女性が取り巻く労働環境が関係しています。
- 就業年齢が早い
- 給与があがりにくい
- 正規雇用の減少
- 非正規雇用が多い
- 正社員での再就職が困難
- 家事の担い手が多い
就業年齢が早い
20代までの若い世代で女性の貧困率が男性より低い理由の1つとして、早く社会に出ることを挙げられます。
高校や短大、専門学校などの教育機関を卒業した後、18~21歳から働き始める女性は少なくありません。
一方、男性は4年制大学に進学するケースも多く、22歳を超えてから働き始めることが過半数を占めています。
そのため、20代だけを見ると男性のほうが相対的に貧困状態にあることが多いです。
大学進学率 | 大学院進学率 | |||
---|---|---|---|---|
男性 | 女性 | 男性 | 女性 | |
2015年 | 55.4% | 47.4% | 14.8% | 5.8% |
2016年 | 55.6% | 48.2% | 14.7% | 5.9% |
給与が上りにくい
早期から働き始めているにもかかわらず、30代に入ると女性の貧困率は男性の貧困率を上回ってしまいます。
その理由として、女性は正社員として働いていても給与が上がりにくいこと、昇進の機会が少ないこと、役員が少ないことを挙げられます。
2005年 | 2017年 | 2018年 | |
---|---|---|---|
男性正社員・正職員を100としたときの 女性正社員・正職員の給与水準 |
68.7 | 75.7 | 75.6 |
男女雇用機会均等法が制定されたことで、同じ職場・同じ役職で雇用された場合は、給料に男女差はなくなりました。
しかし、昇進の機会が少ないことで、男性に比べると女性の給料は上がりにくくなっています。
状況は改善されつつあるものの、女性正社員の給与は男性正社員の給与の2/3~3/4程度です。
正規雇用の減少
人件費削減のために、正社員の雇用を減らしている会社もあります。
男女を問わず非正規雇用者の募集が増えているため、新卒であっても正社員・正職員としての就職が難しくなっています。
また、経済状況に余裕がなく、充分な就職活動をできずに非正規雇用の仕事に就く方も少なくありません。
学生のときはアルバイトで忙しく、卒業後は奨学金返済で忙しいために、簡単に就職できる非正規雇用の仕事を選ぶこともあります。
非正規雇用が多い
女性はパートタイムで働いているケースや派遣社員のように非正規雇用で働いているケースが多いことも、女性の相対的貧困率が高い一因として挙げられます。
大学や大学院を卒業していないために正社員として就職できないケースもあります。
また、一度は正社員や正職員として就職したものの、結婚や出産、育児を機に非正規雇用に働き方を変えることもあります。
日本の中小企業では、まだまだ「出産=退職」というイメージがなお強くあります。
正規雇用として採用してもらえなかったり、産休・育休取得がない企業もあり、仕事を止めなくてはいけない場合があります。
そのため、職場への迷惑を考え、初めから非正規雇用を選択している可能性があります。
正社員での再就職が困難
一度、正規雇用から非正規雇用に移ってしまうと、再び正規雇用で採用されることは容易ではありません。
とりわけ年齢が高くなると、正社員や正職員としての就職が難しくなります。
また、非正規雇用として働いている期間が長いと、「本当に毎日朝から晩まで仕事ができるのだろうか」と労働者自身が不安になることもあります。
「育児や介護で突然呼び出されることがあったらどう対応すればよいのか」と考え、正規雇用で働くことを望まない女性も多いのです。
非正規雇用で低収入の期間が長いということは、老後に受給できる年金額が少なくなることを意味します。
高齢者における相対的貧困率の男女間格差が大きいことは、女性の生涯年収の少なさを反映していると言えるでしょう。
家事の担い手が多い
年々、共働き世帯が増えていますが、家事の担い手が女性であるという点はあまり変わっていません。
女性が家事や育児をこなしつつ外で働くとなると、フルタイム勤務は難しくなります。
また、育児に時間をかける必要がなくなってから正社員として働こうとしても、就職先が見つからず、非正規雇用のまま働かざるを得ないケースも多いです。
そのほかにも、家族の介護問題もあります。
親や義両親に介護が必要になったときも、男性ではなく女性の尽力を期待されることが多いです。
介護をしながら正社員として働くことは難しく、雇用形態を非正規へとシフトせざるを得ないこともあります。
離婚から貧困に陥る女性が多い
女性は結婚出産のタイミングだけでなく、離婚することで貧困に陥る人も多くいます。
そして、子どもを抱えることでさらに貧困状態が深刻なものとなります。
離婚した時、就業状況の割合は男女とも変わりません。
しかし、就業状況の内訳をみると、男性はほぼ正社員なのに対し、女性は非正規雇用と正規雇用が半々と、就業状況に差があり、平均年間収入も160万円と差が大きいです。
離婚で世帯収入が減るため、生活に困窮しやすくなります。
離婚時の状況が関係する
また、収入格差に加え、離婚時の状況により貧困が悪化することがあります。
小学校入学前の子どもがいる場合、子育てにあてる時間が必要となるため、正規雇用の仕事につきづらい傾向があります。
現在、働いている会社が時短勤務対応しているならば大きな問題はありません。
しかし、未だ福利厚生が未対応の会社が多いため、子どもの預け先と就業先の折り合いが付かない場合、非正規雇用への転職が必要になってきます。
女性 | 男性 | |
---|---|---|
離婚時の年齢 | 平均 33.8歳 | 平均 38.5歳 |
離婚時の末子の年齢 | 平均 4.3歳 | 平均 6.2歳 |
親と子のみの世帯 | 61.3% | 44.4% |
親と同居している | 27% | 44% |
また、父子家庭は親と同居している人がおよそ半分いるのに対し、母子家庭のほとんどは親と子どもだけで生活しています。
他に家計や子どもを世話する人がいない状態で、非正規雇用で収入が安定しないから貧困に陥る、という女性は少なくありません。
貧困女性への支援制度
女性の貧困問題を軽減するために、国や自治体、民間団体ではさまざまな取り組みを実施しています。
児童扶養手当は、シングルマザーなどのひとり親世帯で収入が一定以下の世帯が受け取れる給付金です。
児童扶養手当制度を活用すれば、子どもの人数と収入によって毎月家計の補助を受けられます。
生活そのものが成り立たないときは、生活保護制度の活用も検討できるでしょう。
自治体によっては、貧困女性に向けた独自の支援やシングルマザーに向けた独自の制度が利用できることもあります。
その他、地域によってはひとり親世帯の手当があるので、お住まいの地域の区役所で確認しましょう。
なお、貧困女性への支援制度は金銭的な支援だけではありません。
次に紹介するような女性のキャリアアップや住宅の支援制度も存在します。
自立支援制度やシェルター
看護師や介護士などの資格を取得することで、安定した収入を得やすくなります。
国が実施している高等職業訓練促進給付金等事業を活用すると、ひとり親世帯の親が看護師や介護福祉士などの資格を取得するために1年以上学校に通う場合に毎月一定の給付金を受給できます。
また、自治体やNPO団体などで、シングルマザーなどの女性に向けた相談所を開設していることもあります。
忙しくて相談所に行けない方には電話相談に応じていることもあり、話し相手がいない方も不安な気持ちを聞いてもらえます。
そのほかにも、DVや突然の離婚などで住む場所を失った方が一時的に利用できるシェルターを提供している団体もあります。
養育費の取り立てができるようになる
離婚の際に養育費を決めたとしても、払われなかったり途中で支払いが止まったりというケースが多くありました。
しかし、2020年4月に民事執行法が改正され、養育費の取り立てに法的拘束力がつきました。
養育費を取り立てる相手を債務者とし、裁判所から債務者がどの会社に勤め、どこの銀行口座を持ち、株式や不動産を保有している等、財産開示手続ができるようになります。
裁判所に出頭しなかったり虚偽の陳述をした場合、罰金の罰則があります。
養育費の取り立てをお考えの方は、弁護士に相談してみましょう。
貧困の際に頼れる支援制度を知っておこう
最終学歴や育児・家事・介護の負担などのさまざまな要素により、女性は男性よりも貧困状態に陥りやすいです。
また、生活基盤がない状態で離婚をすると、さらに生活が困難になることがあります。
いざというときのために、貧困になった場合にどんな支援制度を活用できるのか知っておきましょう。